イギリス労働党改革に学ぶ 4 ブレアからのメッセージ
ブレアは回顧録のペーパーバック版の序文の中で、右派と左派という伝統的な党派の枠組みを超える新しい考え方を提示しています。
それは、「開放」か「閉鎖」かという切り口です。
「開放的な精神の人はグローバリゼーションを機会と見る。一方、閉鎖的な人はそれを脅威と思う。」
その結果、自由貿易、今ならまさにTPP交渉や移民問題に対する態度も変わってきます。また、シリア問題など、人道上の立場から介入主義を取るかどうかも、「開放」か「閉鎖」で態度が決まります。
それは、政治的な右派か左派かに関係ありませんし、リベラルか非リベラルかとも関係ありません。
政治理念というよりも、直感的な、あるいは肌感覚的なものかもしれません。しかも、生まれつき持っている場合もあれば、後天的に身につける場合もあるでしょう。
それでも、ブレアは、彼の言う「進歩派」は開放思想の擁護者であるべきだと主張しています。
「進歩派」は私の理解としては「リベラル」に近い響きとして伝わってきます。価値観の多様化を認める穏健な保守主義(リベラル保守)は、「開放」の立場に立つことになるでしょう。
しかし、シリア問題などで、介入主義の立場を取るところまで行くかどうかは、そう単純な話ではないと考えます。
しかし、これからの政治の流れの一つの柱として、「開放」の立場に立つかどうかというメルクマールは大きなヒントになると思います。
ブレアを通じてイギリスの政治史を勉強して判かったことがあります。それは、ブレアが長く政権を維持し得た理由が、本来労働党の強い支援者である層を固めたからではなく、「左派・右派のレッテルの単純さを信用しない中道的有権者たちの大規模集団」の支持を集めたからです。後継者のゴードン・ブラウンが政権を維持できなかったのは、逆に、古い労働党の支援者に偏りすぎたからです。
同じように、サッチャー首相が長年政権を維持したのも、保守党主流派と異なり、戦後の福祉国家路線を否定し、労働党に幻滅していた「左派・右派のレッテルの単純さを信用しない中道的有権者たちの大規模集団」に直接アプローチしたからです。
民主党の課題も、日本の「左派・右派のレッテルの単純さを信用しない中道的有権者たちの大規模集団」の支持を得られるかどうかということに集約されます。
最後に、ブレアの次のコメントに勇気をもらったことを報告します。
「人々は、政府が不人気な決定をすること、自分たちがそれについて不満を言うことがわかっていても、最後にはトップに立つ者がリーダーシップを発揮して不満に打ち勝つよう望んでいる。」(ブレア回顧録下pp.198)
「人々は群衆に流れやすい。ところがおかしなことに、彼らは群衆に逆らう覚悟のある指導者を尊敬する。指導者にそのような備えがないと、大衆はその指導者を尊敬しない。」(ブレア回顧録下pp.295)