砂糖への健康リスク課税は行き過ぎ。
厚生労働省が本年6月に発表した「保健医療2035提言書」は、将来の医療福祉に関して、大胆な提案をしています。
座長の渋谷憲司東大教授は、国際的な保健政策の第一人者で、尊敬できる友人の一人でもあります。
渋谷教授のご意見には賛同できる部分もたくさんありますが、農林水産委員会のメンバーとして、砂糖への課税を提案した部分はいささか勇み足ではないのかと思います。
まず、提言の内容は他省庁所管の問題も多岐にわたっていますが、事前の調整は行われていません。
報道では、塩崎大臣が安倍総理に本提言書を説明したとされていますが、他省庁との合議をしていないものを総理に説明することはルール違反です。
一昨日の8月24日には東京大学本郷キャンパス、伊藤謝恩ホールでシンポジウムまで開催していますが,、予算措置までして、厚生労働省主催行っています。大臣の私的懇談会だと言っても、国民は政府の政策の宣伝だと受け止めます。てん菜やさとうきびの栽培農家にとってはショックです。
その中で砂糖に関し、健康リスクへの課税を提言していますが、委員会で質問しても科学的な根拠は示されませんでした。
国際砂糖機関(ISO)によれば、日本の一人当たり砂糖消費量17.3キロ(年間:2014年)です。
諸外国と比較してそんなに大きくはありません。米国32.5キロ、EU37.1キロ、オーストラリア45.2キロ、カナダ34.5キロです。
また、砂糖に課税している海外事例はほとんどありません。米国、1975年砂糖税廃止。英国1962年砂糖税廃止。ドイツに砂糖税あり。
ハンガリーでは、国民健康製品税として、糖分・塩分・カフェインを多く含む食品、たとえばソフトドリンク(1L当たり2.3円)、塩味スナック菓子(1㎏当たり90円)への課税。
フランスでは、砂糖・人工甘味料を「含む清涼飲料水(1L当たり10円)に課税。
デンマークでは、脂肪税として脂肪酸を含む食品への課税(脂肪酸2.3%以上含む乳製品等、1㎏当たり300円)がありましたが、国民の反対で2012年に廃止。
地方税としては、米国カリフォルニア州バークリー市のソーダ税(500ml当たり20円)。
日本では、明治34年に創設された砂糖消費税の課税目的、根拠は「嗜好品」で、担税力が認められたからです。
現行のたばこやアルコールへの課税の根拠も健康リスクに対する課税ではありません。いわゆる「Sin Tax(罪悪税)」ではなく、財政物資として特殊な嗜好品としての担税力に着目したものです。
一方で、一人当たりの砂糖消費量は、1985年当時は年間20キロを超えていたものが、現在17キロ。
1985年のさとうきび産出額は550億円、てん菜産出額823億円でしたが、昨年、それぞれ262億円、361億円と半分以下になり、たいへん厳しい状況です。
その背景には、最近3年間は増加傾向にストップはかかっているものの安価な加糖調製品の輸入問題もあります。
2000年5月、砂糖の価格安定等に関する法律等改正法案の審議の際、衆・参農林水産委員会での付帯決議では、「砂糖の需要拡大を図るため、加糖調製品対策に取り組むこと。」とされています。
農林水産省は本決議により、砂糖の需要拡大を図る義務があります。
その一方で、厚生労働省は健康リスクへの課税を行うことによって、砂糖の需要減少を提案している。
これでは閣内不一致です。林農水大臣には塩崎厚生労働大臣に抗議するよう要請しました。
厚生労働省はあくまでも大臣の私的諮問機関の提案だからと逃げの一手ですが、額に汗して働いている、てん菜農家やさとうきび農家の気持ちになれば、そんな安易な気持ちで無責任な仕事はできないはずです。
しかも、てん菜やさとうきびは北海道や沖縄の地域経済を支える大きな基盤なのですから、安倍政権の地方創世は、結局口先だけの本気でないでことがよくわかりました。