アジアインフラ投資銀行(AIIB)へのアプローチ
中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)に日本が参加すべきかどうか、創設メンバーとなるための締切日(2015.3.31)の前後に、マスコミの報道がかまびすしくなっています。
1997年のアジア通貨危機後に、大蔵省国際金融局でアジア通貨室長を経験し、IMFやアジア開発銀行などの国際機関とアジア各国の板挟みになった私の意見を述べたいと思います。
報道では、出資額1000億ドルの半分を中国が、25%はアジア、25%はその他の地域からまかなうようです。出資額が半分で総裁も中国が出すなら、ガバナンスも含めて、完全に中国が主導権を握ります。ちなみに本拠地は北京です。
IMFでは、2012年ベースで、米国が出資比率1位(17.6%)、日本が2位(6.56%)です。今後、現在6位の中国が3位になります。
出資比率1位の米国は過去11代の専務理事の内2人しか出していません。9人はヨーロッパからです。また、2位の日本と足しても、出資比率は24%程度です。本拠地はワシントン。
AIIBでの中国の存在が異常であることがわかります。
アジア開発銀行の場合は、米国と日本がそれぞれ、出資比率1位(15.65%)で中国が3位(6.46%)。9代の歴代総裁はすべて日本人です。本拠地はフィリピンのマニラ。
アジア開発銀行はインフラ融資のみの機関ではありません。1999年に、従来の開発援助の運営方針を変更し、貧困削減を最重要目標としました。
アジア・太平洋地域には一日2USドル以下で生活している貧困 層が3分の2の19億人います。
それに向けて「貧困層に配慮した持続可能な経済成長」、「社会開発」、及び「グッド・ガバナンス」を戦略の三本の柱とした貧困削減戦略を打ち出しています。
そのため、「環境の保護」、「ジェンダーと開発の促進」、「民間セクターの発展」、そして「地域内協力」の重要性を挙げています。したがって、インフラだけではなく、教育や医療にも融資します。
つまり、アジア開発銀行は、今後アジア・太平洋地域のインフラ資金需要が増加する中、資金が足りないので、IMFやアジア開発銀行のように条件の厳しい金融機関以外の国際機関が欲しい、というニーズとは別の発想でできているのです。
また、中国からすれば、意のままにならない既存の国際機関よりも、自国の影響力を行使できる機関をつくって、アジア・太平洋地域の覇権を握りたいという中長期の戦略もあるでしょう。
そこで、この問題を考える際に重要なのは、IMFやアジア開発銀行の大株主としての日本政府の立場と、インフラ需要に食い込みたい企業を抱える日本単独の立場をきちんと分けて議論することです。
有識者もマスコミもこの2つの立場を混同している例が多すぎます。
後者の立場からは、50カ国近い諸国が参加を表明した今、ビジネス面で劣後する心配をする向きもあり得ます。
しかし、AIIBに参加したからと言って、ビジネスチャンスがにわかに増大するものでもないでしょう。むしろ、国際協力銀行(JBIC)を中心に日本の民間銀行とともに、アジアに打って出る方がしがらみがなくて良いかもしれません。
アジア通貨危機の前には、そのようなビジネスモデルを目指していたはずです。
前者の立場からは、理事会の構成や、機能、透明性などのガバナンスが担保されるかどうか、きちんと見極め、国際機関同士、協調融資ができる相手なのかどうか、また、日本政府としても出資して問題のない組織なのか、じっくり見極めるべきです。
AIIBではソフトな条件で貸付けが安易に行われ、不良債権の山になるおそれすらあります。
以上のことから、AIIBはIMFやアジア開発銀行のようにトリプルAの格付けを取ることは困難で、中国のオーナーシップが強い以上、中国政府並みの格付けとなり、2級の国際機関と評価されます。
また、欧米系の会計事務所やコンサルテイング会社が、AIIBに取り入って、アジアのインフラ融資のあり方を歪める可能性もあります。アジア通貨危機の際に、被害を受けた政府を食い物にする業者をたびたび見かけました。
アジア開発銀行のこれまでの地道な仕事は、現場で高く評価されています。その最大の出資国の日本政府が右往左往してはいけません。
報道は過熱気味ですが、ここは焦らず、高見の見物に徹するべき時です。