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2013年12月13日

日・アセアン特別首脳会議を迎えてー戦略的外交の重要性

(兼原信克著、「戦略外交原論」、日本経済新聞社、2011年)

 今週末、日・アセアン特別首脳会議が開催されます。

 中国、韓国との関係が冷え込む中、アセアンとの連携は重要な外交案件です。

 中国の防空識別圏問題は、北東アジアに緊張をもたらしていますが、これは、おそらく中国の海洋戦略の一環としての布石の一つでしょうから、毅然たる態度で対応するのは当然としても、さらなる長期的な視座での戦略を練る必要があります。

 外交問題は、ついつい目先の派手な事象に目を奪われがちですが、冷静に、複眼的に考えていかなければなりません。

 何と言っても、外交・安全保障は国会議員にとっては、不断に研鑽を積まなければならない分野です。

 ちょうど、来年の中央大学大学院での集中講義のテキストを探している中で、兼原信克著「戦略外交原論」にぶちあたりました。

 最初に、日本の国益を定義した上で、国際情勢の戦略的な読み方を説き、そして、その国益を実現するための課題に論及している好著です。

 著者は、守るべき日本の国益とは、国民の安全と繁栄、倫理・価値観であるとします。そして、その価値観は、「良心」からくるものとします。

 彼の言う「良心」とは、生物の集団として人間が等しく持っている素朴な倫理の共通要素としての、「社会あるところ法あり(法の支配)」、「人間を愛しいと思う気持ち(人間の尊厳)」、「リーダーシップは統率される者の生存と幸福のため(民主主義)」であり、これらは人類に普遍的なものであるというものです。

 東洋的な儒教の思想、「天」=「民」によって権力が規制されるという考え方と、ロックやルソーなど西洋の啓蒙思想による「法の下の平等」や「民主主義」の考え方は、結局同じことだというのが兼原氏の理解です。この考えは、易姓革命を「天意」で説明する「書経」を学んできた私としては、とても納得できる内容です。

 そして、日本はこの150年の間に、苦しみながら、この二つの流れを一つの価値観に統合した経験を持っている。したがって、その経験が、これからの中国を含むアジアやアフリカの新興国の手本になるということを重視します。

 このことを踏まえた上で、先進民主主義国との協調を強化し、中国、インドなどの新興国を現状に取り込んでいく「関与政策」が、今後の日本の外交戦略の基本であるべきとの主張です。

 もっとも、イスラム文化圏に関する対応をどうするのか、兼原氏の論理だけで可能なのかどうか、今のイスラム原理主義の動向を考えると、今の私にはアイデアはありません。

 私のまとめ方が乱暴なので、荒唐無稽な外交論のようですが、現役の外交官である兼原氏は、もちろん詳細なデータを駆使し、軍事的な分析や歴史的な洞察を本書で披瀝しています。

 そして、今世紀後半、米国、EU、中国、インドの4大国がメインの外交プレーヤーになり、日本、ロシア、韓国(統一朝鮮)などが第2列めのプレーヤーとなる時に、日米同盟のあり方やハイパーナショナリズムの中国とどう向き合うか、示唆に富む提言をしています。

 倫理・価値観の重要性と歴史を踏まえた思索、さらに具体的な国際情勢の分析を一冊にまとめた本書に出会えたことを感謝します。

 国会やマスコミのチマチマした外交・安全保障論に飽き足りない皆さん、ぜひ一読をお勧めします。

 498ページの大著なので、うまくダイジェストするのは難しいです、、、苦笑。
 

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