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2013年6月3日

竹森俊平著「通貨円の謎」

 
アベノミクスのリスクに関しては、このブログでも書きましたし、予算委員会や本会議の質問でも指摘しました。

 最近、株式市場や為替市場が調整局面に入っていますが、急激な変動でしたから、いったん調整するのは自然な流れだと思います。

 「それ見たことか!」なんて言うつもりはありません。

 最近、慶応大学の竹森俊平教授の「通貨円の謎」(文春新書)を読んで、一つの視座をいただけたので、要約します。2002年出版の「経済論戦は甦る」(東洋経済新報社)を読んだ時も「目からウロコ」の経験がありました。

 まず、小泉改革の評価です。

 小泉さんは「痛みなくして改革なし!」と言ったが、小泉改革には「痛み」はまったくなかったと指摘します。

 まず最大の功績は「不良債権問題にからむ金融システムの不安」を解決したことです。りそな銀行救済のために、税金を投入して、市場に安心感を与えました。株主も含めて誰も「痛み」ませんでした。

 第2の成果は、公共事業を削減しながら長期の好況を生んだことです。しかし、これも、たまたま円安バブルと欧米の好景気による「輸出の増加」のおかげです。

 欧米の好況はアメリカの中央銀行FRBのグリーンスパン議長の超金融緩和政策により住宅バブルが発生したからです。小泉内閣の政策の結果ではありません。

 もっとも2003年から2004年にかけて、35兆円の為替介入により円安を誘導したのは小泉さんの成果だと竹森教授は指摘しています。

 そこで、竹森教授のアベノミクスの見立てです。

 積極的な金融政策は、円高の是正には役立ち、輸出拡大を委縮させないが、輸出拡大そのものは海外の経済に大きく依存します。財政政策も、一回限りの補正予算は可能でも、大盤振る舞いは不可能です。

 三本目の矢である規制改革は、「痛み」が伴います。2014年からは消費税も上がり、公共事業も3兆円減ります。「痛み」のなかった小泉改革とは違い、安倍内閣は国民に「痛み」を与える役回りです。

 その「痛み」をやわらげるには輸出の増加しかありませんが、それは海外の景気しだいだと竹森教授は喝破しています。つまり「幸運」に頼るしかないというわけです。

 難しい理屈をこねるより、大づかみにこのように見ておくことには賛成します。

 この本で、竹森教授が指摘している点で、腑に落ちたのは、日本経済は「誤った価格シグナル」によって長期の経済停滞に陥ったというところです。

 資本輸出国の日本がバブル崩壊など経済危機に陥っても、海外資産を取りくずして円転できますから、本来円安になるべきところが円高になった(過去の2回の大震災時も)。

 デフレ下では、景気が悪くなれば長期国債の金利が下がります。一方で景気の悪化は税収を減らし財政赤字を増やします。日本では財政状態が悪くなるほど国債の金利が下がりますから、財政再建のモチベーションが上がりません。

 どちらも価格シグナルが正常に機能していない状況です。アベノミクスが成功して価格シグナルが正常化すれば良いが、その際には、すでに手遅れで、デフレ脱却イコール国債金利の暴騰もあり得るというのが竹森教授の警告でした。
 

衆議院経済産業委員会が開催されます。

2013年5月31日

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2013年6月4日