100年安心年金はどうなったか?―その2
(年金で暮らす皆さんが集まる敬老福祉大会であいさつする岸本周平。)
実は、厚生労働省の官僚が伝えたかったのは、ケースGとHです。この二つは、生産性(TFP)の伸びも0.7%と0.5%と常識的ですし、金利もA~Fとは作り方が違っています。A~Fでは、超楽観的な高い利潤率を基に推計していますが、GとHでは市場金利を使い、3.1%と2.3%と低くなっています。賃金上昇率も1.9%と1.3%とまだしもリーズナブルです。
その場合にマクロ経済スライドをきちんと適用すると、モデル世帯の所得代替率(現役サラリーマンの収入との比較)は42%と35~37%になります。
つまり、客観的なデータを前提にすれば、厚生年金の給付額はかなり少なくなります。
特に、ケースGで、基礎年金は一人分では満額でも現在価格で3万5千円(現行6万4千円)まで減ってしまいます。
国民年金だけでは、老後の生活には対応できません。
とても100年安心とは言えません。
解決策は、大胆な改革を一日も早く行うしかありません。
まずは、支給開始年齢を弾力化します。今は65歳から支給することを基準に早くもらえば毎月の手取りが減り、遅くもらえば増えます。
その計算基準の年齢を68歳~70歳くらいまで引上げるべきです。欧米諸国では既にそうなっています。
さらに、基礎年金は全額消費税でまかなう方式に変えます。
国民年金の納付率は6割程度ですが、免除の方も増えており、実際は半分以下ですから社会保険の体をなしていません。また、専業主婦は保険料ゼロでも満額年金がもらえるという不公平な仕組みになっています。
全額消費税でまかなえば、高額所得者には支給しなくてもすみます。社会保険だから金持ちにも払わなければならないのです。
基礎年金の保険料がなくなれば、個人だけでなく、社員の保険料を半分負担している企業にとっては減税以上にメリットがあります。なぜなら、赤字の企業でも社会保険料は払っているからです。
1階部分の基礎年金を税金で手当てして、最低保障年金の役割をさせ、2階部分は報酬比例で保険料でまかなう制度はイギリスなど諸外国には例がたくさんあります。
年金は世代と世代の助け合いですから、一日も早く、改革をスターとさせるべきです。
公的な年金は働く世代が保険料を払い、そのまま支給に当てますから、インフレに強いのが特長です。
私的な保険は物価が100倍になったら、値打ちが100分の1になってしまいます。第二次大戦後、生命保険がそうなりました。
その意味でも、安定的な公的保険は次の世代の若者にとっても有意義なものですから、将来に不安を解消するべく、私たちの世代が少し損をしても早く改革をしなければなりません。