低福祉中負担か中福祉高負担か?
(池尾和人著「金融依存の経済はどこへ向かうのか」、日本経済新聞社)
来年4月の消費税の引き上げの是非をめぐって、政府与党が慎重な検討を行っています。
昨年、社会保障と税の一体改革法案の修正提案者として深くかかわった身としては、しっかりと議論をして、政策の誤りなきを期すべきだと考えます。その意味で、慎重に検討していただくことは大歓迎です。
民主党は、党をつぶす結果となっても社会保障と税の一体改革法を通したわけですから、基本的には法律通りの引き上げスケジュールを支持するべきでしょう。早く、自らの立ち位置を明確にしなければなりません。
しかし、予定通り、消費税を10%にしても、日本の財政の安定にはほとんど役に立ちません。増税分約12兆円は、本来赤字国債でまかなっている社会保障費の補てんで消えてしまいます。それでも、プライマリーバランスの黒字化(財政破たんを防ぐための最低条件)はできません。
社会保障予算が毎年1兆円ずつ自然に増加しますので、10年で約10兆円増えます。
また、国債の利払い費は、今、9兆円ですが、債務残高がふくれていきますので、今の低い金利のままでも10年後には約8兆円増えます。ふたつ合わせて18兆円の増加。消費税で7~8%分になります。
アベノミクスが成功して、物価上昇に連れて金利が上がっていけば、自然増収も発生しますが、利払い費も倍増しますので、そう簡単な話でもありません。
つまり、これまでの自民党政権が財政再建を放棄していた結果として、借金地獄に陥ってしまっているのが現状です。
アトランタ連銀のブラウン氏と南カリフォルニア大学のジョーンズ教授の試算では、毎年1兆円増加の社会保障費を抑制せずに財政安定化を目指すためには、2017年に消費税を33%にする必要があります(「金融依存の経済はどこへ向かうのか」、pp.195-199)。
このタイミングを5年遅らせると、2022年に37.5%の消費税が必要。つまり、改革を遅らせると1年につき、消費税が1%上昇することがわかります。
この試算で、物価が2%のケースでは、最終消費税率は25%になっています。その意味では、アベノミクスが成功しても、2017年には25%の消費税が必要です。
これは、しかし、経済学的には常識的ですが、政治的には「不都合な真実」です。
したがって、財政再建は消費税の引き上げだけでは不可能で、社会保障費の自然増を抑制する大胆な改善プランが必要なことがわかります。
このことを、池尾教授は「中福祉高負担」か「低福祉中負担」の選択肢しかないという言い方で示しています(「同書」、pp.65-66)。
また、経済が成長すれば、財政再建できるという俗説がまちがいであることは、ハーバード大学のロゴフ教授の研究成果「政府債務のGDP比が90%を上回れば、経済成長率が大きく低下する」(ロゴフ仮説)で説明しています(「同書」、pp.210-211)。
欧州中央銀行(ECB)の研究では「政府債務のGDP比が98%から105%を上回れば、経済成長率が大きく低下する」との結果が出ており、ロゴフ仮説を実証しています(「同書」、pp.212-213)。
日本のその比率はすでに200%を超えています。政府債務の大きかったことが「失われた20年」の原因のひとつだとも言えますし、今後、バラ色の経済成長シナリオは難しかしそうです。
このような「不都合な真実」を誠実に、有権者の皆さまに伝えていくのがこれからの政治家に求められていると覚悟を固めています。