TPP協定は日本の砂糖農家を直撃する
本日、衆議院TPP特別委員会で質問に立ち、TPP協定による砂糖農家への影響について議論しました。
国内の砂糖の原料生産は北海道のてん菜、鹿児島県及び沖縄県のさとうきびで、それぞれの地域の基幹産業です。
食料自給率の確保、地域振興などの国土政策、さらには離島防衛の観点からの安全保障政策とも密接に関係します。
北海道のてん菜は、小麦やばれいしょなどとの輪作(十勝の4輪作、網走の3輪作)の重要な部分を占めており、これが欠けると地域経済が消滅するおそれもあります。
1.糖価調整金収支の悪化問題
価格の安い輸入砂糖との競合から国内生産者を守るために、所得保障などの支援策がとられてきました。
この経営安定化支援の財源負担は、おおむね調整金500億円、一般会計100億円の枠組みで行われてきました。調整金は、精製糖企業が価格に転嫁して消費者に負担をお願いする仕組みです。
しかし、この制度は不安定で、累積赤字は一時700億円を超えました。平成18年には、砂糖生産振興基金から470億円、平成22年には一般会計から329億円を拠出して対応しました。
その後平成23年度より単年度黒字になりましたが、なお累積181億円の赤字があります。この赤字が発生した要因の一つとして、後程説明する加糖ココア粉などの加糖調製品の輸入の増大が指摘されています。
2.砂糖へのTPP対応
輸入の砂糖には関税の他、糖度の高さに応じて調整金が課されています。今回のTPP協定によって、高糖度原料糖の内、99.3度未満のいわゆる「ハイポール」は関税が無税になる上、調整金が糖度の低い一般粗糖より1.5円安になります。
そうなるとタイ産の粗糖の一部が豪州のハイポールに代替される可能性が高くなります。結果として、調整金収入が減少することになります(北海道農協中央会の試算では約20億円の調整金の減少。)。
これでは、今でも不安定な糖価調整金制度の財政にマイナスの影響を与えます。
3.加糖調製品
調整金制度のない加糖調製品はこの10年間で40万トンから50万トンに増加しました。
加糖ココア粉は1割がココアの粉で、残りの9割が砂糖ですから、調整金がない分だけ有利な加糖調製品の輸入が増えれば、国内の砂糖の需要は減ることになります。
今回のTPPでは、この加糖調製品に関税割当枠をつくり、枠内関税を引下げます。
たとえば、加糖ココア粉は関税割当初年度5000トンから6年目75000トンになり、関税も29.8%から11年目には14.9%に優遇されます。現在約9万トンの加糖調製品輸入の内、TPP参加国からは54000トン、その内シンガポールが約4万トンと8割弱を占めています。
農水省の「影響分析(2015年11月)」でも「安価な加糖調製品の流入により、糖価調整制度の安定運営に支障が生ずることも懸念される」と評価されています。同じく「影響試算(2015年12月)」では、「制度対象外の加糖調製品等への関税割当の設定等により、これらの輸入が増加」としています。試算ではキロ当たり5円の価格下落圧力を想定しており、国内産業への影響は大です。
今回、加糖調製品にも新たに調整金が課されることになりますが、本来、TPPとは関係なく実施すべきでした。ハイポールの輸入促進策に加え、加糖調製品の輸入増加によって価格下落圧力が強まる上、調整金収支の悪化により経営所得安定化対策の根幹がゆらぐおそれがあります。
4.新たに調整金を賦課する加糖調整品とガットバインド
制度の対象になる加糖調整品の調整金額は農水省によると70億円から100億円程度になります。しかし、加糖調製品に調整金をかけると言っても、関税の枠内での振り替わりであるため、抜本的な解決策にはなりません。
貿易交渉の中では、ガットバインドというものがあって、代償措置を出さなければ、関税を減らした分しか、調整金などの相殺関税等がかけられません。結局、今回のTPP協定でも関税が下がった分しか調整金が取れない仕組みです。
しかし、全体のTPP交渉の中で、他の関税を下げることで代償措置を出せば、ガットバインドをはずして、関税に加えて調整金を賦課することも可能ではなかったか。
少なくとも、交渉技術としてこのような高いボールを投げることで有利な交渉もできたはずですが、交渉過程でそのような主張は行ったのか明らかにはなりません。
TPP参加国の内、加糖調製品に利害関係のある国はシンガポール、マレーシア、豪州です。米国は関係ない上、米国自身は加糖調整品に関して砂糖と同様に高い関税をかけています。米国とタッグを組んで交渉することもできたはずです。
平成12年5月の衆議院農林水産委員会の砂糖の価格安定等に関する法律等の一部改正法案付帯決議では、「砂糖の需要拡大を図るため加糖調製品対策に取り組むこと。」とされています。しかし、この間、政府はまったく決議を守ろうとしてこなかったことが問題です。
5.「食料・農業・農村基本計画」との整合性
さらに、昨年決定された「食料・農業・農村基本計画」では、砂糖の生産は精糖換算で、平成25年度の69万トン(てん菜55万トン、さとうきび14万トン)を平成37年度に80万トン(てん菜62万トン、さとうきび18万トン)を目標に掲げています。
TPP協定の結果、加糖調製品の輸入が増えて、国内砂糖の需要自体が減少する中で、国内の生産量を増やしていくことは不可能でしょう。しかし、政府は食料・農業・農村基本計画の見直しは否定しています。
その理由として国内対策を充実するとのことですが、体質強化対策としては、産地パワーアップ事業(27年度補正505億円)、加工施設再編等緊急対策事業(27年度補正46億円)、外食産業等と連携した需要拡大対策事業(27年度補正36億円)などすべて他の農林畜産物を対象とする事業の内数でパンチ不足です。
これでは、てん菜やさとうきび農家が安心して営農を継続することは困難です。