農協改正法案の問題点―その2
政府の農協改革の前提である、「JA全中の監査により単位農協が困った。」という具体的な事例を示してもらいたいと要求しても、まだ具体例は出てきません。
法改正の前提となる立法事実がないのはおかしい。
一方で、平成8年の「金融健全性確保法」により、一定規模以上の協同組織金融機関に外部監査制度が導入されています。平成10年に農協法が改正され、中央会による会計監査と公認会計士の活用が義務付けられました。
政府案では、JA全中から会計監査機能をを無くし、新たに監査法人を立ち上げることになります。
仮に、そうするなら、新しい監査法人(便宜上、「新JA監査法人」と呼びます。)には徹底的に会計監査の世界標準に合わせてもらわなければなりません。
1.農協監査士の処遇問題
法案の附則では、現在監査を行っていない都道府県農業組合中央会は、任意で監査事業を行えることになっています。
この監査は会計監査なのか業務監査なのか?農協法第37条の2の会計監査人になることができるのか?
農協法第37条の3の規定で会社法337条「会計監査人は、公認会計士又は監査法人でなければならない。」を準用しているので、会計監査人には該当しないとすれば、どのような趣旨で本附則がつくられているのか?よくわかりません。
そもそも、今、農協の監査をしているJA全国監査機構という組織には、農協監査士341人に対して、公認会計士及び試験合格者は29人しかいません。
農協監査士は、公認会計士とは違って、農協の中で資格試験が行われている身内の資格を持った職員さんで、ほとんどが都道府県中央会からの出向者です。したがって、勤務は所属の都道府県中央会で行っています。
農協監査士の皆さんの仕事を確保するために、都道府県中央会で監査業務ができるようにしたのでしょうか?
もちろん、彼らは公認会計士の資格がありませんから、会計監査はできません。いわゆる業務監査(農水省の言う「コンサルテング業務」)をすることになります。
この改正は、その趣旨が不透明でよくわかりません。委員会で質問しましたが、明快な答弁はありませんでした。
新JA監査法人の今後の厳しい業務運営を考えた時に、農協監査士が補助者の扱いで新監査法人で働くのか、公認会計士試験に挑戦するのか、地元の都道府県中央会に戻って働くのか、転職するのか、人生設計の曲がり角です。
農協監査士の現状分析など具体的な資料も用意できない農水省は無責任だと思います。
2.新JA監査法人と「独立性の原則」
新JA監査法人は、日本公認会計士協会倫理規則「独立性に関する指針」を守らなければいけません。
つまり、会計監査においては、精神的独立性と外観的独立性を有していなければなりません。
仮にJA全中から分離して監査法人を設立したとしても、今のままでは外観的に利害関係があるとの国民の疑念を払拭できません。
新監査法人が全中から支配力が及んでいないことが明確に認識できる状態にしなければなりませんが、改正法案にはそのようなシステム設計が欠けています。
一般監査法人の場合は、特定の依頼人からの報酬依存度を下げるセーフガード(たとえば、特定の企業グループからの収入が50%を超えない。)を適用して、この問題をクリアしています。
外観的独立性を担保する制度が作れないなら、新JA監査法人も農協以外のクライアントからの監査報酬を50%以上確保する道を探すべきではないかと考えます。
これは、ほんの一例ですが、新JA監査法人がクリアしなければいけないハードルはたいへん大きく、金融庁や公認会計士協会の厳しい指導がを受けることになりますので、本当に機能できるのか心配です。