日本の林業政策を見直す―速水林業の視察
民主党農林水産部門会議で森林・林業政策視察会を開催。
5月18日(月)に、三重県尾鷲市の速水林業さんの大田賀山林に行ってきました。
代表の速水亨さんの案内で、1000ha以上の規模で林業経営を行い、環境面からも最先端の水準を目指している現場を見てきました。
今や、日本の林業は事業として成り立たないような厳しい経営状況の下にあります。そんな中で、民間企業として工夫をしながら効率化を追及するとともに、自然と共生する姿勢に感動しました。
100から500ヘクタール規模の大きな林業家でも、その年間所得が20万円そこそこしかないことを皆さんご存知でしたか。 今から20年以上前は勤労者世帯と同様400万円から500万円だった所得が激減しているのです。
ですから、多くの人が林業から離れています。
そのため、民主党政権になった2009年、「森林・林業再生プラン」が決定されました。
再生プランでは、2020年までに国産材の供給量を2倍にし、木材自給率を50%以上に引上げるという目標をかかげ、林業改革のため、路網の整備や森林集約化による生産性の向上、適切な間伐による収量の増大などの政策が打ち出されました。
私自身、税制調査会の役員として、「林地の相続税納税猶予」の制度をつくる仕事をしたものですから、思い入れのある政策変更でした。
速水さんによれば、再生プランは日本林業の転換点を示した点で評価できるが、個別には経営的な観点が欠けており、修正の余地はあるということでした。
たとえば、住宅政策との連携がなく、間伐材を市場に出した結果、需給のバランスが崩れ、木材価格がさらに値下がりした点は大きな反省点です。
また、再生プランは、採算性を考えずに、今の山の材を市場に出すことばかりに熱心でその後の育林については弱いとのこと。
また、集約化の目標の50ヘクタールは中途半端。
大規模製材所への流通を促進することは、地域の特色ある林業育成にはマイナスだし、何より価格決定の主導権が製材所側に移り、林業が成り立たなくなる傾向を助長しかねません。
速水林業では、試行錯誤を繰り返し、徹底的なコストカットを行ってきました。
同時に、「森は命の集合体」という哲学の下、短期の伐採で利益を上げるのでなく、広葉樹との共生や、豊かな土壌、生物の多様性を高めるために長期の伐採を目指してきました。
さらに、国際的な森林認証制度である「FSC(Forest Stewardship Council:森林管理協議会)」認証を日本で初めて取得。FSCは環境保全のため違法伐採を止め、経済的にも持続的な森林管理を推進するための認証です。
今や、米国やEUでは、違法に伐採された木材や木材製品を輸入、輸送、販売などをした場合、その認識が無くても罰せられます。先進国で、このような法律がないのは日本だけです。
日本の林業政策は、民主党政権時代の検証も含め、抜本的に見直さなければなりません。
今回の視察ではいろんなことを学ぶことができました。やはり、現場に行かないとわからないことが多いですね。
(速水亨著、「日本林業を立て直す」、日本経済新聞社、2012年8月)