集団的自衛権とは何か―その2(歯止め論)
まず、これまでの集団的自衛権に関する政府の公式答弁を紹介します。
「国際法上、国家は、集団的自衛権、すなわち、自国と密接な関係のある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、実力をもって阻止する権利を有しているものとされている。我が国が、国際法上、このような集団的自衛権を有していることは、主権国家である以上、当然であるが、憲法第9条の下において許容されている自衛権の行使は、我が国を防衛するため必要最小限の範囲にとどまるべきものであると解しており、集団的自衛権を行使することは、その範囲を超えるものであって、憲法上許されないと考えている。」としている(昭56年5月29日「稲葉誠一(衆)議員の質問主意書に対する答弁書」)。
今、与党内で行われている、集団的自衛権の議論は、安倍総理の私的な懇談会「安保法制懇」の報告書に基づいて行われています。
その安保法制懇の北岡伸一座長代理は、集団的自衛権行使の「歯止め」として、次の5つを上げています。
①密接な関係にある国が攻撃を受けた場合
②放置すれば日本の安全に大きな影響が出る場合
③攻撃された国からの行使を求める明らかな要請があった場合
④首相が総合的に判断し、国会の承認を受けること
⑤被攻撃国以外の国の領域を通過するには、その国の許可を得ること
これらの「歯止め」に意味があるかどうか、元防衛官僚で内閣官房副長官補(安全保障担当)だった柳澤協二氏の意見を紹介します。(柳澤協二著「亡国の安保政策」、岩波書店、2014年4月)
①密接な関係のある国とは「同盟国」の米国のことなので、議論の前提を述べているだけで、歯止めでもなんでもない。
なお、政府の答弁によっても、①は定義の問題であることが明確だと、私は思います。
②周辺事態法では、「そのまま放置すれば、我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態等」が「周辺事態」と定義されている。集団的自衛権に当たらない行為を行う周辺事態法の歯止めの方が、厳しいわけで、②は歯止めと言うより「アクセル」になっている。
③要請もないのに勝手に防衛と称して軍事行動はとれない。③は集団的自衛権の行使が正当と認めらるための国際的なルールであって、「歯止め」ではない。
④個別的自衛権による現行の防衛出動の場合、国会の事前の承認が、必要であり、特に緊急の必要があるときに限り、事後承認を受けなければならない。集団的自衛権の行使の場合は、これと同等かそれ以上の要件が必要。不意の攻撃の場合は、適用できない。
なお、「総合的に判断」の基準が明確でないので、米国からの要請を断ることができるかどうか不明。一方、断れば、日米同盟の危機になる。
⑤許可なく他国の領域を通過することは、そもそもできないので、およそ「歯止め」ではない。
以上から、北岡伸一座長代理の5つの「歯止め」はまったく説得力のないことが明らかです。