高田創著「国債暴落」日本は生き残れるのか
アベノミクスの出口戦略が難しいことは、このブログでも予算委員会でも指摘してきました。
みずほ総合研究所の高田創チーフエコノミストの近著「国債暴落」はその難しさを見事に説明していますので、概要を紹介します。
まず、バブル崩壊後の日本経済の停滞の背景に「バランスシート調整」があったことが重要です。
バブル期、企業、金融機関、家計などで資産が増える一方で負債も増えます。バブルが崩壊すると、資産がなくなりますが、負債は残ります。
企業は、資本を削減し負債のカットを受けました。金融機関は貸出しを消却し資本を削減、政府から資本注入も受けました。
それでも膨大な民間債務は、徐々に国債で肩代わりするしかなく、「先送りの道具」として機能したというのが、高田氏の「身代わり地蔵」論です。
第二次大戦後の同じようなバランスシート問題は「預金封鎖」によって、一気に解決されましたが、平時にはそのような乱暴なことはできなかったのです。
日本の失われた20年、国債が雪だるまのように膨れ上がったのは、財政規律の弛みという側面で評価されること多いのですが、高田氏は、ある意味、歴史の必然だと評価します。
彼は、1997年の消費税引上げ時には、民間債務が政府債務の倍近くあったことから、増税の必要度は低かったとします。
そして、「身代わり地蔵」が功を奏して、2013年3月には民間債務が減少し、政府債務の半分強になっており、民間には消費税の負担能力が生じているので、最低限でも5%の引上げは必要という市場参加者の声を代弁しています。
次に、悪い金利上昇を避けながら、膨大な国債問題をソフトランデイングさせるためには、大恐慌期のアメリカの前例が参考になると言います。
大恐慌の後、戦費調達の国債発行もあって、銀行が膨大な国債を保有します。第二次大戦後、ようやく民間需要が高まってくると、金利上昇、国債価格の下落圧力が強まり、政策当局は「国債価格支持制度」を取ります。
長期金利を2%に押さえるために、中央銀行FRBが国債の買い切りオペを続けます。その後、インフレ圧力が増し、1951年に財務省とFRBの間で「アコード」を結び、国債価格支持を止めて短期国債のみの売買に専念します。
ただし、「債券切り替え」政策によって、投資家に生じるキャピタルロスを財務省が吸収することで膨大な国債問題をソフトランデイングさせました。
今、黒田日銀は、毎月の国債発行額の70%を引き受けています。これは、日銀がお札を刷って歳出を賄う「財政ファイナンス」そのものです。
しかし、これは序の口で、今後、景気回復が進めば、金利上昇圧力が高まる中、日銀の財政ファイナンスをさらに強めるしか出口がないということになります。
その費用は、日銀納付金が相当期間ゼロになって、国庫が負担することになります。
それは、確かに一つの解だと思います。
しかし、財政的には、金利上昇に伴う利子負担の増加が、景気上昇に伴う税収増ではまかなえない場合は予算編成を難しくするおそれが大きくなります。
高田氏も、景気回復期に向かう、今こそ「国債暴落」の危険が大きいと警告しています。
彼が言う「市場への愛」である「財政規律の維持」を本当に政府が示せるかどうかが鍵だと思います。
今の安倍内閣には、増えた自然増収で借金を返し、大胆に歳出をカットし、プライマリーバランスの赤字半減をやり抜く覚悟が見えません。党派を超えて、出口戦略の重要性を訴えていきたいと思います。