イギリス労働党改革に学ぶ 5 第三の道
(アンソニー・ギデンズ著「第三の道―効率と公正の新たな同盟)
ブレアのニューレイバーの思想的基盤をつくったアンソニー・ギデンズの「第三の道」について検討してみましょう。
ギデンズは、「古い社会民主主義と新自由主義という二つの道を超克する道」を「第三の道」と定義しています。
政治的な左派と右派の色分けの違いは「平等」をどう考えるかだとギデンズは言います。
「左派は更なる平等を志向し、右派は社会の階層化は避けられないと考える。ただし、それは相対的な概念である。」と。
しかし、「経済体制のあり方としての社会主義が崩壊した結果、左右両派を分かつ主要な線引きの一つが消え失せた」ことも認めます。
つまり、「地球温暖化問題」、「原子力発電を容認すべきか」、「地方分権を支持すべきか」などの問題は左派と右派とで明確に見解を異にする問題ではなくなるわけです。
その上で、第三の道は、グローバリゼーションを肯定します。保護主義は合理的でないし、世界が分断される結果になります。そして、コスモポリタンで多文化主義の国家を目指します。
さらに、第三の道は、「社会的公正」への強い関心を要請します。そのため、「権利は必ず責任を伴う」というモットーを大事にします。たとえば、「失業手当には、積極的に職探しをする義務が伴わなければならない。」のです。
そして、社会的連帯(solidarity)の再構築を求めます。そのためにも、アクティブな市民社会を育て上げることが重要課題になります。
イギリス労働党の綱領にも「community solidarity」の重要性が謳われています。日本の民主党がつくった「すべての人に居場所と出番を」に近い考え方だと思います。
また、第三の道は「哲学的保守主義」を前提にします。つまり、人間の理性は完全でないという保守主義の考え方に基づき(参照リベラル保守と何か)、科学技術を相対視し、過去と歴史を尊重します。したがって、環境問題などにも可能な限り予防原則に即して対応することになります。
古典的社会民主主義は、経済安全保障と富の再分配が主で、富の創出を二の次にしていました。新自由主義は、「競争力の強化」と「富の創出」に最大の力点を置きます。第三の道もこの二点を重視します。
しかし、完全な能力主義社会は、そもそも実現不可能だし、既得権益を子孫に相続させれば自己矛盾になります。
第三の道は平等を「包含(inclusion)」、不平等を「排除(exclusion)」と定義します。
包含とは、市民権の尊重であり、労働と教育の機会が市民に与えられることです。
排除とは、社会の最底辺の人々が雇用や、教育、医療、福祉などの機会にありつけないことです。
第三の道は、包含をすすめるために、福祉国家から、社会投資国家(ポジテブ・ウエルフェア社会)への移行を目指します。ポジテブ・ウエルフェア社会とは、「経済的な給付」だけでなく「心理的なベネフィット」を増進する社会です。
以上、グローバリズムや市場主義と社会の安定を両立させるための思想的挑戦が第三の道だということです。
ブレアが第三の道によって、政権を獲ってから10数年の年月は経ちましたが、今なお、私たちが参考にすべき部分が多いと思います。