世代間会計による格差の実態
1990年代に流行った「世代間会計」という考え方があります。経済学者のコトリコフなどが提唱したものです。
これは世代ごとに、生涯を通じて政府サービスから得る「受益」とその財源として支払う「負担」がどうなっているか、現行制度を前提に試算するものです。
内閣府が2005年度に、「年次経済財政報告」の中で、計算を発表したことがあります。
一橋大学の小黒一正准教授が、近著「2020年日本が破綻する日」(2010.8.9、日本経済新聞社)の中で、新しい試算を発表されています。
これによると、50歳代と60歳以上の世代は受益が上回ります。何と、60歳以上は生涯で3962万円の受益超過。50歳代で989万円の受益超過。
一方で、40歳代は172万円の負担超過。30歳代では833万円、20歳代で1107万円の負担超過と若い世代ほど負担が大きくなります。
20歳未満と将来生まれてくる世代では8309万円の負担超過です。
将来世代と60歳以上の世代では差し引き1億2271万円の格差が生じる計算です。
もちろん、70歳代後半の世代は戦争に翻弄され、年金制度のなかった親の世代の面倒をみていますから、やむをえない部分もあります。それでも1億2千万円の格差は行き過ぎだし、団塊の世代への受益超過は説明できません。
高齢化が進む前に現役だった世代は、少ない保険料でその数倍の年金をもらっています。また、1000兆円の借金がありますから、負担が先送りされています。
細かい数字はともかく、トレンドはこの試算の通りです。
「日本の国債は国内で消化しているから、もっと借金しても問題ない。」という意見があります。確かに、まだ数年は国内の貯蓄でまかなえるかもしれません。
しかし、1年財政再建が遅れると、その分だけ、この世代間の格差が広がっていくのです。
前にも書きましたが、消費税でまかなう約束の「年金、介護、老人医療」の今の世代が使う福祉予算17兆円の内10兆円は先送りして、将来世代にツケを回しているのですから。
孫や、これから生まれてくるひ孫のために、財政規律を取り戻すことが「道徳」ではないでしょうか。