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2020年3月31日

新型コロナウイルス感染症への緊急経済対策


 新型コロナウイルス感染症がWHOによりパンデミックと宣言され、株式市場の乱高下にみられるように世界経済は大きな混乱に陥っています。人や物の移動が制限されていますので実物経済の停滞もあり、日本でもリーマンショック・東日本大震災を超える経済危機が予想されます。

 政府は、イベント自粛や小中学校の一斉休校要請などによる中小・小規模事業者や個人事業主等に対して、休業補償や資金繰り支援を打ち上げていますが、必要な政策を適切に実施するために冷静な判断が求められます。

 感染症による経済的な停滞には通常のマクロ経済政策は役に立ちそうにありません。中国経済に過度に依存していた結果サプライチェーンが断絶したことや、人々の移動の制限やイベント自粛による経済の落ち込みにも特効薬はありません。これまでの各国中央銀行の超金融緩和政策の結果バブルを生んでいた市場に対して、さらなる金融緩和で対処するにも限度があります。実際に3月15日の米国FRBや16日の日本銀行の緊急対策は市場からNOを突き付けられました。

 いわゆる景気対策という発想ではなく、社会的弱者の生活と命を守ることを最優先に考えるべきです。その上で、国民心理の安定化を図るためにも、大規模な緊急経済対策を立案しなければなりません。

 今、国民民主党は、①10兆円の家計減税、②10兆円の給付措置、③損失に対する10兆円の経済補償を柱に党内議論を進めています。もちろん、中小零細企業や個人事業者のための資金繰り支援、支払い猶予(モラトリアム)はその大前提となります。

 これまで、アベノミクスの下、実質賃金の低下とともに、将来の社会保障への不安から個人消費は低迷してきました。コロナショックで消費マインドはさらに冷えています。しかし、消費喚起ということではなく、収入が目に見えて少なくなる家計を貧困から救うための政策が必要です。

 まず、所得減税という政策が考えられます。勤労型の給付付き税額控除とセットで行えば、低所得者の皆さんには生活保障のための現金が行き渡ります。働いても手取りが減らない仕組みですからモラルハザードの問題もありません。減税や現金給付をしても貯蓄に回り、消費の増加につながらないという批判がありますが、消費喚起が目的ではなく貧困対策が目的です。減税分の一部が貯蓄に回っても目をつぶるしかありません。

 もう一つは、消費税を時限的に減税することで家計全体を救済する方法です。たとえば、10%(軽減8%)の税率を一律に5%に下げます。確かにお金持ちほど減税額が大きくなりますが、物価を1回限り大幅に下げることによって低所得者の生活を守ることが可能になります。これに対して、物価を下げてデフレにしても景気対策にならないという批判や、一時的なコロナショックに対応して消費税率を下げた後、本当に元に戻せるのかという批判もありえますが、アナウンスメント効果が大きいので、国民の安心を取り戻す効果は重視すべきです。

 勤労型の給付付き税額控除は理想的だが、制度設計に時間がかかり、所得把握にも問題があるとの考えからは、国民一人当たり一律10万円を給付するという提案もあり得ます。いわば、ベーシックインカムの実験を行うわけです。金持ち優遇という批判に対しては、この給付を課税対象にすれば、低所得者対策と位置付けることができます。

 さらに、特別融資や信用保証の拡大だけでは対応できない事業者の経済的損失を補償する制度を作ります。経済的損失の線引きの問題、関東大震災時の震災手形のようなモラルハザードが生じるなどの問題があり得ますが、今回のコロナショックの深刻さを考えた時に、ある程度大胆な政策はやむを得ないと考えます。特に、中小零細企業に厚生年金や健康保険の社会保険料を補助すれば雇用を守ることができます。個人事業者には国民年金や国民健保の保険料を補助することで資金繰り支援と将来の安心の確保の一石二鳥となります。

 一方で、以上のような緊急の経済対策で「今、目の前にある危機」に対応した後は、これまでと同じような景気浮揚策を取るべきではないと私は考えます。これまで、14世紀末のペスト、大航海時代の天然痘やはしか、19世紀のコレラなどの感染症が流行した後、社会の在り方が大きく変わっています。今回の新型コロナウイルス感染症によるショック(コロナショック)も、おそらく大きく私たちの社会や経済のあり方を変えるはずです。

 強欲な資本主義の下、実体経済と乖離したマネーゲームに狂奔した結果、マイナス金利や日銀による株の買い支えを許す社会を作ってしまいました。非正規社員を増やすなど人件費コストダウンによる利益を株主配当と自己株式取得に回し、内部留保をため込む経営の問題点もあからさまになりました。その代償は大きかったのではないでしょうか。
 グローバル経済のメリット・デメリットも明らかになりました。中国経済への過度な依存は製造業のみならず、観光サービス業にもリスクが及びます。身の丈に応じた、バランスの取れたビジネスモデルが必要です。

 また、インターネットによる会議システムなどによりテレワークの可能性が示されました。諸外国に比べて、インターネットを使った授業や遠隔医療の遅れが明らかになりましたから、コロナショックの後は、日本国内でも働き方の変化や生活面でのIT化は相当なスピードで進むでしょう。既に、民間企業では5G技術をベースにVRなどを駆使したビジネスモデルの構築が始まっています。

 グローバリズムの下の強欲な資本主義から決別し、気候変動に対応したサステイナブルビジネスのあり方や、貧富の格差をなくし、個人の生活の見直しを後押しするような政策を考えていくべきです。GDPの落ち込みをカバーするためのヒステリックな金融緩和や財政出動政策は百害あって一利なしだと思います。

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