農協改正法案の問題点―その4
JA全中の全国監査機構を一般の監査法人にするという政府の改革案は、前回指摘した「独立性の原則」だけでなく、そんなに簡単なものではないことを指摘します。
1.守秘義務の原則(日本公認会計士協会倫理規則第6条)
一般監査法人においては、被監査対象である法人並びに親会社の経営者や監査役等との間でコミュニケーションをとることはあるものの、上位組織の経営者等以外の別組織や外部組織に対して監査情報を提供することは守秘義務に反することになり、禁止されています。
したがって、新JA監査法人においても、監査情報の提供を守秘義務に反しないよう一定のルールを設けるべきです。
2.二重責任の原則
二重責任の原則とは、経営者の財務諸表の作成責任と監査人の意見表明責任を区別することを言います。
つまり、経営者は適用される財務報告の枠組みに準拠して、財務諸表を作成する責任を有しています。これに対し、監査人は経営者の作成した財務諸表について意見を表明する責任を有しているということです。
会計監査人は被監査対象の財務諸表等が経済的実態を適切に表示しているかを独立した立場で意見表明する責任があり、当該監査人が被監査対象の経営意思決定に関与することは、いわゆる「二重責任の原則」を逸脱した行為となるため、禁止されています。
したがって、被監査対象であるJAが経営に係る指導(経営コンサルティング)を必要とした場合には、会計監査(会計監査人)とは別の法人等によって対応しなければなりません。
これまでのJA全中全国監査機構はまさに、「二重責任の原則」に違反していましたので、厳格なルール作りが重要です。
3.二流の監査法人は不要
会計監査に係る会計基準等の改正や高い倫理観の醸成、独立性の保持といった観点から公認会計士においては、継続的な研修等によりこれらの情報のキャッチアップを法的に義務付けられています。
全中監査においては継続的に研修を進めるとされているが、法的な義務がなく、研修を受講しなくとも罰則を受けません。
このため、構成員の大半が農業協同組合監査士等により構成されるJA監査法人の監査は、一般に公正妥当と認められる監査基準に基づいて実施される監査の質という観点から、経済社会の信頼性に足る水準が担保されていません。
会計監査は、被監査対象である企業の置かれている産業、規制等の外部要因及び事業活動等といった内部統制を含む企業及び企業環境を理解し、財務諸表全体レベルと項目レベルのリスクを評価(リスク評価手続)して、具体的な監査手続、実施時期及び範囲を設定し、監査意見の基礎となる十分かつ適切な監査証拠を入手します(リスク対応手続)。
また、近年では固定資産の減損会計や退職給付会計、税効果など会計上の見積りを伴う項目が多く、会計監査人には高度な判断が要求されます。
このように企業のリスクや高度な判断が要求される会計監査を公認会計士試験とは異なるレベルの資格しか有しない農業協同組合監査士で構成される組織で同等の水準による監査が実施可能であるか疑問です。
一方で、被監査対象であるJAが全中経営指導部、都道府県農業協同組合中央会又はJAバンクに対して経営に係る指導機能を必要とした場合、これまでの経緯や特別な事情を把握しているJA監査法人を選任するインセンティブが働きます。
そのため、一般監査法人が会計監査人として選任されるために、一般競争入札やプロポーザル入札を原則とし、評価内容やその結果について広く公開し、透明性の高い入札とする必要があります。