100年安心年金はどうなったか?―その1
(厚生労働省の入っている中央合同庁舎5号館)
2014年の年金の財政検証の結果が公表されました。
年金は5年に1回、財政の検証を行います。私が、大蔵省主計局で年金担当をしていた頃は「年金再計算」と呼んでいました。
私の時は、支給開始年齢を60歳から65歳に引上げる改正にあたり、たいへん苦労したことを思い出します。
5年前の財政検証の時には、自民党政権で100年安心年金とうたわれましたが、5年経ってどうなったでしょうか?
財政検証のためには、将来推計人口を基に、物価上昇率、賃金上昇率、運用利回りなどの前提を置いて、100年先の見通しを出します。
5年前の検証では、3通りのケースをつくりましたが、賃金の上昇率が2.9~2.1%、運用利回りが4.2%~3.9%ととても楽観的な前提だと批判されました。ちなみに、10年前は、賃金2.5~1.8%、利回り3.3~3.1%でした。
そして、夫婦二人のモデル世帯で、現役のサラリーマンの平均所得の50%以上を年金でもらえるかどうかを検証します。運用利回りを高くしておくと、積立金が増えるので、計算上は50%を超えやすくなるのです。
5年前に「100年安心」と言えたのは、「マクロ経済スライド」といって、少子化と長寿化に連動して年金の水準を引下げるルールを入れたからでした。
残念ながら、デフレの状態では、「マクロ経済スライド」がはたらかず、この5年間で財政が悪化してしまいました。
今回の検証では、何とAからHまで8通りの計算例を出してきました。
アベノミクスの成功を前提に、超楽観的な前提を置いたケースがAからFまで。賃金上昇率は4.3%~2.5%、運用利回りが5.4%~4.0%と5年前と比べてもあり得ないような高い数字になっています。
今年の4月の一人当たり賃金は前年比0.4%の上昇率です。10年国債の利回りは足元で0.595%です。
そもそもの前提となる全要素生産性(TFP)も1.8%~1.0%と置いていますが、1.8%というのはバブル経済の時代の一過性の数字です。
ここまで、国民をバカにした数字を基に100年安心と言われても、信用できません。
しかも、金利の方が経済成長率よりも高く設定されています。
その結果、年金財政は安定しますが、この前提では金利払いが増加し、財政がパンクします。およそあり得ない想定で、無責任極まりないのです。
日本政府が、ここまで、能天気な試算を出したことはありませんでした。
―その2に続く