農業政策の大転換―自民党農政の失敗に学ぶ
(キヤノングローバル戦略研究所山下一仁研究主幹)
今日は、野党の国会議員でつくる「既得権益を打破する会」に参加しました。
25年来のお付き合いのある、キヤノングローバル戦略研究所山下一仁研究主幹が講師をだったので、何をさておいても出席しました。山下さんは農水官僚で、一時期、通産研究所RIETIのメンバーとして一緒に暴れまくっていた仲間です。
現役時代から、彼は、農家への直接支払を主張し、農地の集約による国際競争力の向上を主張し続けていました。
山下さんは、高い関税や減反政策で国内農業を保護してきたのに、日本の農業が衰退してきたことを自民党農政の失敗だと位置づけます。
1960年以降、農地面積は250万haも減少。その内、耕作放棄地は40万haにも及びます。
コメ農政は、減反による供給減少のために5000億円の財政負担を強いています。その結果、米価が高止まりして、消費者負担が6000億円増えています。1兆円を超える国民負担をした上で、米の生産は減り、水田面積は減少しました。
諸外国とは真逆の農政がその原因であり、背景には小規模の兼業農家を保護することで繁栄してきた農協の政治的圧力があったと分析します。
山下さんの処方箋は以下の通りです。
まず、関税を止め、米の減反政策を廃止し、主業農家にのみ直接支払をします。そうなると、農地の規模が拡大し、単位面積当たりの収量が増加します。
兼業農家は、米の価格が下がりますから、自分で営農するよりも主業農家に土地を貸した方が地代で儲かります。
主業農家も直接支払を受けられ、国際競争力が増し、米の輸出も可能になりますから、十分な地代を兼業農家に払えるということになります。
米価も下がり、国民も主業農家も兼業農家もみんなハッピーになります。
その前提として、ゾーニングを厳格にして農地の宅地転用などを禁止することが必要になります。また、耕作放棄した農地の固定資産税は宅地並みにするというペナルティーは当然必要です。
一方、来年度の安倍内閣の農政改革は、一部のマスコミが「減反廃止」と誤解して報道していますが、まったく別の政策なのです。
安倍内閣の政策は、まず民主党の「戸別所得補償」を廃止することと、減反補助金の内容を変更することだけです。
戸別所得補償制度は、減反目標とリンクしていましたが、これを廃止しても政権交代前に戻っただけです。
減反補助金の対象を米粉、飼料用の米生産に拡大し、金額も10a当たり8万円から10万5千円に引き上げます。主食用の米の販売収入が、今平均10a当たり10万5千円ですから、農家としては米粉や飼料用の米を作った方が明らかに特になります。
特別な付加価値の高い米農家以外は、安易に転作に流れるようになり、その結果、主食用米の生産が減り、米価が上昇することが予想されます。
結局、農地の流動化による大規模農家は実現できず、国民は今まで以上の財政負担とさらに高い米価の負担をしなければなりません。
農家の平均総所得が勤労者世帯の実収入の1.2倍を超えている今、これ以上、消費者をいじめる政策をすることには反対です。
民主党の戸別所得補償は、大改革だったので、すべての農家を対象としてスタートしましたが、次のステップで主業農家に限定することを想定していました。本当に減反政策を無くす政策を目指すべきです。