経済産業委員会での消費税転嫁対策法案の審議
今日は、経済産業委員会で消費税の転嫁対策法案に対する質問を行いました。概要は次の通りです。
(対内閣官房社会保障改革担当室長)
問1.社会保障と税の一体改革は、民主党政権の下で、社会保障の安定財源の確保と財政健全化を同時に達成することを目指して策定した施策。我々は、国民が将来にわたって安心して暮らしていけるよう、社会保障制度を持続可能なものとしていくために、消費税を社会保障財源化した上で税率を10%まで段階的に引上げるという決断をした。そして、自民党、公明党とともに三党合意で実行した。
国民の皆様に消費税率の引上げについての十分な理解を得るためには、現在、社会保障国民会議や3党における社会保障の見直しに向けた議論を加速させ、早急に国民に一体改革の全体像を示し、丁寧に説明を行っていくことが必要と考えるがどうか。
(対公正取引委員会委員長)
問2.消費税は消費に対し広く公平に負担を求める税であり、納税義務は事業者に課されているが、その最終的な負担は、価格への転嫁を通じて消費者の方々にお願いするのが本来の姿。ご負担いただいた消費税は、社会保障を通じて国民の皆様に還元されることになる。
したがって、事業者の方々が消費税の負担を飲み込むのではなく、円滑に価格に転嫁できる環境を整備することは、政府にとって極めて重要な責務。今回は、2度にわたり税率が引き上げられることもあり、中小事業者から、果たして円滑に転嫁ができるのかという不安の声が多く寄せられていることを踏まえ、民主党においては、昨年5月、既存の独占禁止法や下請法に基づく規制だけでは不十分であり、新たな立法措置が必要である旨を発表。昨年6月の民自公3党の合意においても、こうした方針が確認された。今回の法案は、こうした経緯を踏まえて提出されたものと認識している。
こうした立法措置は、本来、自由であるべき経済活動への行き過ぎた介入であるとの見方もあるようだが、現実の経済においては、価格支配力が強く、力の強い事業者と、これらの事業者の言うことを呑まざるを得ない立場に置かれる中小の事業者があり、これをそのまま放置すれば、市場の寡占化が進み、多様な事業者による健全な競争が損なわれ、ひいては地域経済の健全な発展を妨げることになりかねない。
このような観点から、我が国においては独占禁止法において、力の強い事業者による優越的地位の濫用や不当廉売などの不公正な取引方法を禁止しているものと認識しているが、あらためて、これらの不公正な取引方法を禁止している意義について説明してもらいたい。
(対公正取引委員会委員長)
問3.消費税の転嫁を拒否したり阻害する行為は、きちんと監視・是正を行っていくべきであるが、現行の独占禁止法の運用では必ずしも適切に対応しきれないという問題がある。すなわち、独占禁止法は違反事業者に対して排除措置命令や課徴金といった重いペナルティを課すことができる。
その反面、事実を認定するための手続きに非常に時間を要するため、迅速な対応が困難となっている。ここ数年の独占禁止法における優越的地位の濫用として行政処分が行われた件数はどのようになっているのか。
(対公正取引委員会委員長)
問4.このような独占禁止法の問題点を克服するために作られたのが下請法であり、同法では、事業者の優越的地位に関する認定が資本金の大小等の外形標準によって簡便に行うことができる反面、違反事業者に対するペナルティは勧告・公表という独占禁止法に比べ軽いものとなっている。
これにより公取は機動的に優越的な地位の濫用行為を取り締ることが可能となっているはずだが、下請法違反として勧告や公表を行った件数はどのくらいあり、それらのうち具体的な事例としてはどのような事案があるのか。また、処分にまで至らなかったとしても、中小事業者から相談を受けたり、疑わしい事例等はどのくらいあるのか。
(対公正取引委員会委員長)
問5.下請法の規制の対象となる取引は、製造請負などの一部の請負契約に限定されており、商品を納入するといった売買契約は対象に入っていない。それにもかかわらず、これだけの数の違反、違反類似の事案が毎年生じているという現実を十分認識することが必要。
今後、消費税率が引き上げられた際には、大規模小売事業者と納入業者の間においてもこのような買い叩き等の事例が頻発することが懸念されるが、下請法では対処できないこととなる。今回、政府が提出した転嫁対策法案では、この点について、どのような形で克服しているのかについて説明してもらいたい。
(対公正取引委員会委員長)
問6.事業者の方々のヒアリングを行った際、特に中小事業者の方々が声をそろえて発言されたのは、たとえ立派な法律を作ったとしても、現実問題としては、中小事業者側から「こんな違反行為を受けた」といったことを公正取引委員会に告発するのは不可能に近い、ということであった。
仮に、取引相手に告発したことを知られてしまった場合、取引が打ち切られてしまうのではないかという心配から、甘んじて理不尽な契約を受け入れざるを得ないのが実態。このような中小事業者の置かれた立場を前提に、政府としてはどのような形で買い叩きなどの違反行為を探し出し、適切に指導していくつもりなのか。
(対公正取引委員会委員長)
問7.転嫁拒否行為を行う事業者を監視し取り締ることは極めて重要だが、そのためにはしっかりとした体制を整備することが必要不可欠。違反行為を行う事業者に睨みをきかせるためには、それなりの人員を確保することが必要だが、他方で、厳しい財政事情の中、公務員人件費を抑制していかなければならないという点にも留意する必要がある。このような状況下で、より実効性のある監視・取締りのための体制を整えていくために公取はどのように対応していくのか。
(対公正取引委員会委員長)
問8.今回の法案により、転嫁拒否行為に対してより迅速に対応していくことは可能になると考えるが、一方で、民間事業者の間では、既に、税率引上げを見越して今の段階から納入価格の引き下げを要求するような動きがある。この法律が施行される前に、いわば駆け込み的に買い叩き等を行う事業者が出てくることも十分に想定され得るが、このような事業者に対してはどのように対処していくのか。
(対経済産業大臣)
問9.規模の小さな事業者が消費税を転嫁できなくなるという問題は、これまで述べてきた買い叩き等の優越的地位の濫用だけが原因で生じるとは限らない。地方の商店街など、規模の小さな小売事業者は大手の大規模小売事業者との競争にさらされており、その利幅は非常に小さく、大変な思いで事業を続けているというのが実態である。
「シャッター通り」といった表現が使われるようになって久しいが、近年の日本の商店街における空き店舗の状況はどのようになっているか。また、商店街が厳しい環境に置かれてしまっている原因として、大規模小売事業者やチェーン店の進出もあると考えられるが、政府としては商店街の現状をどのように把握しているのか。
(対消費者庁担当副大臣)
問10.このように、商店街をはじめとする小規模な小売事業者は、大手のスーパーやコンビニエンスストアとの厳しい競争環境の中、必死に知恵や工夫を出し合って生き残りのため頑張っている。このような事業者の方々にとっては、消費税率の引上げに際して、消費者に対して円滑に転嫁できるかどうかは死活問題である。
そのためには、冒頭に申し上げたように、消費者の方々に今回の一体改革の意義に加え、消費税は価格転嫁を通じて最終的に消費者にご負担いただく税であることを十分に理解してもらうべく、徹底した広報を行っていくことが重要である。しかし、それだけでは不十分であり、政府はより積極的に、小さな小売事業者にとって転嫁の障害となるような事を取り除いていくことが必要である。
その観点からは、今回の法案において、事業者があたかも消費税をもらわないことが当然といった宣伝を行うことを禁止することは必要な規制だと考える。ただし、規制の範囲があいまいだと、事業者を必要以上に委縮させることになってしまうことから、今後、禁止される表示について明確な基準を示すなど分かりやすいガイドラインを早期に作っていくべきと考えるが見解如何。また、その時期を示せ。パブリックコメントに1か月以上はかかるので、急ぐ必要がある。
(対財務副大臣)
問11.今回、2度にわたり消費税率が引き上げられることから、値札の貼り替えをはじめとする価格表示の問題に頭を悩ませている事業者の方々が多い。価格表示についても十分な対策が必要だが、外税がいいのか、内税がいいのかといった点については事業者の間でも意見が分かれており、消費者と事業者の利益が相反する面もあるなど難しい問題。
事業者から様々な意見を伺ったところ、現行の総額表示義務について、値札の貼り替えの手間暇や転嫁を円滑にする観点から弾力化してもらいたいとの意見や、顧客とのトラブルを避けるためにも総額表示を維持してもらいたいといった意見など、業種や業態に応じて様々であった。その中でも、値札の貼り替えの手間暇の問題については、丁寧な対応が必要。
例えば、靴下を製造しているメーカーでは、予め商品に値札を縫い付けて包装し出荷する慣行となっているが、靴下などは市場に流通する期間が長期にわたるため、現在の5%の税率での価格を表示した商品がそのまま新税率適用後も店頭に並んでしまうことになる。現行の総額表示義務を厳格に適用すると、メーカーは小売側から値札を貼り替えて改めて出荷するよう求められることとなり、大変なコストがかかってしまう。このため、予め「本体価格+税」といった値札にしておくことで値札を貼り替えるコストを抑えたいという要望が寄せられている。
こうした問題に対応するため、総額表示義務を弾力的に運用することが必要であり、今回の弾力化措置は正当であると考えるが、他方、消費者にとっては、最終的な支払額が分かりにくくなったり、外税表示と内税表示が混在して混乱しないかという懸念もある。今回の政府案においては、この点についてどういった考えに基づき、どのような措置を講じることとしたのか。
≪軽減税率関連≫
消費税率の引上げに当たっては、きちんとした低所得者対策を実施していくことが不可欠と考えている。この点について、先般の3党合意においては、自民党及び公明党の主張によって低所得者対策として複数税率も検討課題として追加されたという経緯がある。民主党としては、当初より、真に手当が必要な方々にターゲットを絞って対応することができる給付付き税額控除を採用すべきであり、複数税率の導入は避けるべきだと主張してきた。
その理由としては、何よりも、複数税率の導入が新たな利権を生み出し、税制が政治的な道具とされてしまうという問題点がある。生活必需品には軽減税率を適用すべきだ、という議論はもっともらしい響きがあるが、一口に生活必需品と言っても、何が生活必需品かは、年齢や家族構成、ライフスタイル等に応じて人それぞれであり、一律に政府が決定できるようなものではない。
その結果、様々な理由を付けて、各業界が自分のところの商品を軽減税率にすべくロビイスト活動を繰り広げ、結果的に、声が大きく資金力のある団体が主張する商品やサービスは軽減税率が適用されることとなるという極めて不公平な税制となってしまう。
実は、売上税の議論の時に、私は中曽根首相の官邸に勤務して横で見ていたが、50品目以上が非課税になった。タクシーが課税でハイヤーが課税。魚が非課税なので、魚を獲る漁船も網も非課税、魚を運ぶクール宅急便も非課税。こんな議論になった。今の消費税、非課税は13品目。埋葬、火葬、授業料など。税率が恣意的だった物品税の不公平をなくすために、一律課税の消費税が導入された経緯が重要。
(対財務副大臣)
問12.次に財源の問題である。仮に食料品に対する税率を5%に維持することとした場合、単一税率で10%まで引き上げる場合と比べて、どの程度の減収となると見込まれるか。
兆円単位(2兆円台半ばから3兆円台前半)の減収をカバーするだけの代替財源の確保は容易なものではない。民主党政権時、我々は国及び地方のプライマリーバランス赤字を、2015年度までに対GDP比で半減、2020年度までに黒字化するという財政健全化目標を設定した。現在の自公政権の下でも同様の財政健全化目標が掲げられている。
これは、どの政党が政権を担おうとも確実に達成していかなければならない国際的な公約である。今般の一体改革では、消費税率を単一税率のまま維持した上で税率を10%まで引上げることを前提に、社会保障の維持・充実と先に述べた財政健全化目標を達成していこうとするものである。
このため、軽減税率の導入により兆円単位の代替財源を確保するためには、一体改革で示した社会保障の充実策の追加投入規模を縮小するか、更なる消費税率の引上げを行うしかないというのが現実。これに対して給付による対応であれば、所得の低い方々に的を絞って重点的に手当を行うことができるため、軽減税率と同様の効果を、より少ない財源で行うことができるはずである。
次に、消費税の納税の実務を担っている事業者が、複数税率にすることによる経理等の事務負担に耐えられるかという問題がある。特に規模の小さな事業者の方々にとって、納税事務に関する負担は最小限であることが望ましい。ここで、まず、現在の中小事業者の経理などに関する実態についていくつか確認したい。
(対経済産業大臣)
問13.近年、パソコンの普及が進んだことや、POSレジなどもよく見かけるようになっており、中小事業者であっても少々複雑な経理であっても対応できるかのような主張をする人もいるが、中小事業者の中で、コンピュータによる経理やPOSレジなどを使っている事業者はどの程度いるのか。
(対経済産業大臣)
問14.中小事業者の事務処理能力が限られているとしても、税理士や会計士といった専門家に委託することで対応できるといった主張を耳にすることもある。
しかし、専門家に依頼するということは当然追加的なコストがかかることになり、厳しい経営環境にある中小事業者にとってそんな余裕はないというのが現実ではないかと考える。中小事業者の経理における税理士や会計士の関与割合はどの程度となっているか。また、中小事業者は専門家に経理を依頼した場合、どの程度のコストがかかってしまうものなのか。
複数税率を導入した場合、事業者は売上、仕入の両方において、適用される税率ごとに区分して経理を行い、税額を計算する必要が生じる。現在の消費税制度においては、単一税率であることのメリットを最大限活かし、売上、仕入ともに帳簿に記載した合計額に税率を乗じることで一括計算が可能となっている。
事業者にとってみれば、法人税や所得税の申告書を作成する過程で、比較的少ない手間暇で消費税額の計算もできる仕組みとなっているものが、軽減税率の導入により、これまでとは全く異なる税額計算を行わなければならないことになる。
最近では、これまで税理士等の専門家に委託していた中小企業であっても、厳しい経営状況から、委託をやめるところも出てきていると聞いており、先に質問した中小事業者の経理の実態も踏まえると、中小零細事業者に複雑な区分経理や税額計算を強いることは非現実的である。
このように、低所得者対策としての効果は非常に限定的である軽減税率のために、多くの事業者に負担を負わせるような選択は取るべきではなく、そういった観点から、経団連、中小企業団体、税理士会など多くの経済団体や税・会計の専門家が単一税率の維持を主張していることには十分理があるものと考える。
以上。